日本地質汚染審査機構のロゴマーク 日本地質汚染審査機構
−2020年 年初ごあいさつ−

2020年の挨拶

−地質汚染イブニング・セミナー第300回達成と
NPO法人日本地質汚染審査機構創立20周年記念事業
=「地質汚染科学事典」(単元調査法=国土愛)出版にむけて−

1992年に「環境と開発に関する国連会議(地球サミット)」の事務局長モーリス・F・ストロング氏がまとめたリオ宣言(Rio Declaration on Environment and Development)で「我々の世代の生活も満足され、未来の世代の生活をも満足させるような持続可能な開発(Sustainable Development, SD)」が謳われました。それを受けて私達は、1994年8月18日-19日に国際シンポジウム「リオからの道−地質環境・地球環境をめぐる持続可能な開発−」を経団連ホールで開催しました。このシンポジウム成功の裏には、現在のNPO法人日本地質汚染審査機構の会員が大きく関わっていたことを特筆しなければなりません。26年前のことであります。当時は公害問題の解決が先決で「持続可能な開発」といった概念は皆無に等しかったように思われました。地盤の沈下は典型七公害のひとつとされ、地下水を1滴でも汲めば地盤は沈下するという誤った考えから地下水の揚水が全面禁止の方向にありました。したがって、地下水揚水に関わる地盤沈下監視のための地盤沈下・地下水位観測井、地盤沈下監視用水準点網が整備されていきました。地盤沈下・地下水シミュレーションモデルの開発なども急速に進みました。
 当時から私達は、観測井の整備や水準点網の整備・シミュレーションのモデル開発などの科学技術面から積極的に関わってきました。その整備・研究開発にかかわる一方で「地下水の持続可能な開発」をも主張をしてきた私達に向かって社会の多方面から強い矢が飛んできました。公害問題の解決が最優先される時代であったからです。そのような社会環境の中で、我々に元気をくれたのがリオ宣言でした。ここで誤解をさけるために、私達は公害問題の軽視論者ではないことをお断りしておきます。
 時は経て、2015年の国連サミットで「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」が採択され2016年から2030年までの国際目標となりました。持続可能な17の目標と169のターゲットは世界各国間で合意されました。そして、わが国では1992年の「持続可能な開発(SD)」から2015年の「持続可能な開発目標(SDGs)」までの23年という年月の中で公害問題から環境問題へと人々の考えが少しずつ変化してきました。
 1994年の国際シンポジウムで提案していた「持続可能な開発」の主題について、今日の日本から振り返れば、それには大きな意義があったものと思われます。しかし、公害問題から環境問題の解決へと舵を取る過程で発生してきた矛盾に対する点検も必要であります。環境問題解決のために公害を発生させてきている側面も見受けられるからです。
 このような情勢のなかで舵取りに成功してきたのが、2016年7月施行の水循環基本法だと思います。水循環基本計画の「持続可能な地下水の保全と利用」は、本機構の長年の主張とも一致し心の支えにもなっています。しかし、「持続可能な地下水の利用」は実現可能ですが、「持続可能な地下水の保全」には予算の保障も必要です。財政難の現代にこの保障は難儀ですが、その解決策として公害問題解決のために公共投資で設置された施設の再活用も重要な手段のひとつと思います。地盤沈下問題の解決目的で設置された全国の地盤沈下・地下水観測井、地盤沈下監視用の水準点網などは、水循環基本計画の中の「地下水利用計画」で即使用可能だからです。それらは従来の観測の目的だけでなく水質・水温の観測にも利用が可能であり、地下水の質的な持続的利用から地熱利用や都市化による地下での温暖化や地球温暖化傾向をも予測でき次世代の生活環境の持続的利用には欠かせない国民的財産ともなります。
 一方では、環境への急な舵取りで本来シームレスである環境を縦割の行政で施策が進み、そこから生まれた負の遺産も多くあることも理解しなければなりません。そのひとつの例として、地質汚染(土壌汚染を含む地層汚染+地下水汚染+地下空気汚染)問題などを上げることができます。そして、この汚染問題は日本国土の汚染を助長させてきたという側面も国民ともども知らなければなりません。さらに、本機構で従来から調査を行ってきた災害時に発生する複合地質汚染問題や自然由来のフッ素・ホウ素・ヒ素といった元素の薬効・毒性といった基準の矛盾点を医療地質学的観点からも勉強する年にしたいものです。また、化学物質過敏症の幼児から目を逸らしてもなりません。2011年3月開始(環境省による)の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」が継続されています。人と汚染に関わる長い年月の調査研究で未来の子供の命を守る調査です。複雑で息の長い調査で結果は直ぐには出難い調査研究です。財政難の折には軽視されがちな研究ですが、しかしこのような国民の命に関わる長期的研究こそ軽視してはならないと思います。
 環境の「持続可能な開発」に舵を切ってきた今日、水の循環をみても人の営みの中から発生する汚染問題をみても、その解決には環境の縦糸と横糸とで総合化した科学的概念とその具体的施策が必要であることは自明であります。縦糸と横糸からなる布を織るにも歴史が必要であり、世代を超えた努力が必要であることをSDからSDGsへの変遷が教えています。
 本機構の地質汚染の概念は、そもそも環境汚染現象を縦糸と横糸とで総合化した概念です。その概念の正しさを証明するためにも更なる実践が必要であります。それは、愛すべき美しい国土を作ることへも通じます。
 今年も、会員ともども「地質汚染・災害イブニングセミナー第300回」達成と本機構創立20周年記念事業「地質汚染科学事典」の出版との達成に努力いたしましょう。
 そして、本機構の科学的調査法である単元調査法の普及にも努力しなければならない年でもあります。

NPO法人日本地質汚染審査機構 理事長
理学博士・茨城大学名誉教授
楡井 久
(地質汚染診断士・地層液流動化診断士)

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